彼らは上海での仕入れの仕事を終え、嘉略関(3日目の夕方到着)の自宅へ帰る途上であること。そして、はなはだ失礼ながら、本物の夫婦であるとのことだった。でもそうならば、ご主人が気の毒になるほど、圧倒的かかあ天下の夫婦ということになる。たとえば座席の占有率。軟臥の座席は、夜ともなればベッドに早変わりするだけあって、長さは優に2メートルはある。大人3人が並んで座っても充分な広さがあるのだ。ところが奥様は、2メートルの座席のおよそ4分の3を占領している。
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いや、決して巨漢というわけではない。あくまでも中肉中背の体躯でいらっしゃる。つまり、安楽椅子のように、その身を横たえておられるのである。哀れなご主人はといえば、お尻だけ申し訳なさそうに座席のすみっこに乗せ、それでも笑顔いっぱいで奥様の話に相づちを打っているのだった。その奥様から名刺をいただく。にっこり微笑む奥様の顔写真入りで、しかもラミネート加工された超高級名刺である。そこには、このように記されていた。「酒鋼貿易有限公司総経理温自強」つまり、温おばさんは貿易会社の社長さんであったのだ。それにしても、自強とはいかにも強そうなお名前。